再就職…

わしじゃ。

やはり雇われ仕事はなんだか気兼ねする。

再就職して働くよりかは、節税と所得の確保を考えて、個人事業主になるのも悪くないのうとおもう。

青色申告のための帳簿の作成はちと面倒じゃが、個人の行動そのものを事業として捕らえれば、随分経費で落とせる。

重要なのは事業内容じゃ。まあ、ものつくり、作品制作、という軸はぶらさないで、副業収入としてネット広告やアルバイト、ライター、ソーホーなどが主眼となるかのう。

節税に関してはもう少し学習せねばならんのう。

はっきり言えば資産を守る策をほとんど知らん。これはマズいことじゃ。
再就職の為に失業保険を得ながら就職活動するよりも、自身の仕事を自身で作り出しながら個人レベルで身の回りを管理しながら行動した方が、なんだかワクワクするような気がしておる。

この思いつきはまだ家族には言っておらん。何と言うのじゃろうか。

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娘に会いに行く

わしはバカじゃ。何も娘の悩みをわかっておらんかった。
二日たち、療養所に見舞に行く。部屋には娘はおらんかった。午後は作業があるからとのこと。

邪魔にならんように、中央広場まで歩く。静かなところじゃ。空気は澄み渡り、繁華街の喧騒はここにはない。草のムンとした匂いが足元の芝生から漂う。
娘は、健気にうごいとった。茶髪のあいつは遠目からすぐわかる。班長みたいね長身の女性と楽しそうに話しておる。草を刈っておるようじゃった。

わしはそのまま帰って来た。それ以上そこにいる意味もなかったし、草の匂いを嗅ぎながらわし自身が娘の悩みであったことを忘れておった。
娘の笑顔を見れて十分じゃ。妻は面接にでかけておる。
帰宅したら、元気じゃった、とだけ伝えよう今度は妻と一緒に弁当こさえて娘に会いに行こう。

それまでわしは、がんばる。働かなければなるまいて。まだまだ隠居は許されないようじゃ。

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わしの悩み

どうでもいい悩み


もう、わしの悩みは妻と娘の心を取り戻してあげるべく、全力でtっすけてあげることじゃ。以前のわしの中にあった悩みはもう、すでにわしの悩みではない。その悩みは、完全にどうしようもできない物事だから。

わしには兄がいた。四歳年上の兄じゃ。すでに兄の死んだ年齢を超えた。

兄は交通事故で頭を潰し死んだ。助手席の恋人は無事じゃった。死んだ兄の年齢をもうすいぶん上回って、わしは、失業生活をすごしておる。

気付けば、兄に関する記憶が薄らいでいる。わしはたまにこわいと感じる。わしの中から兄が、兄の記憶がなくなるのかと思うと空恐ろしくなる。しかし、兄の死をきっかけに、灰色の二十代をやり過ごせたような気もする。このまま薄らいでしまえとも一瞬思う。わしの大切なふたりを助ける為に忘れるべきなのかもしれない。わしはわしが死なない限り兄の死んだその日のことを忘れることはできない。

妻や娘がいなくなれば、わしには何が残るのだろうか。今のわしにはわからない。

電車から見える街の灯はオレンジ色。きれいじゃ。わしは、変わったのぅ。清廉潔白ではなくなり、ただ、テクニカルに人心を操る術を得た。威圧する傲慢さも体得した。大人の欺瞞に満ちた笑顔など、やろうと思えばいくらでもできる。

そのようなときに人の本当の優しさ、代償を求めない優しさに触れてしまうと心が張り裂けそうになる。建前で付き合うビジネスライクな連中と過ごし過ぎたのかもしれぬ。わしは立ち戻れない。失業生活はまだ終わらない。ふたりを取り戻すまで。

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再就職ブランク

改札


改札口。サラリーマン生活を停止してあまり利用してないのう。

ほんのつい最近までーー定期券を入れ口に入れ、改札をスルーして駅のホームに入らんとするときに取り損なうことがしょっちゅうーーそうじゃった。

後ろに控えている若造など「何モタモタしてんのよ、おっさん」といいたげじゃった。
後ろを振り返らず先行くサラリーマンたちからは「ダサいぜ、おっさん」と思っておるようじゃった。

奴らは決して後ろを振り返りはしない。クールにスマートに地下階段を駆けていく。しかしわしのようなささいなヘマを冒した愚人を奴らは心の中で、蔑み、嘲笑い、侮辱しておったやもしらん。朝の駅で見掛けたわしのような愚人と己とを見比べ、

「最近、ツいてないけど、朝、改札近くでモタモタしてるおっさんよりかは、まだマシかな」

そういう風に優越心を補強する役割を果たしているかもしらないのう。

しかし国鉄の時代であれば改札をスルーするのは難しかった。最近じゃ改札を通る度に、通った履歴をメールで知らせるサービスもやっておるらしいの。情報産業じゃ。ハイテクに成り下がったモのよのぅ、改札も。おかげで会社をサボることも現代のサラリーマンには許されないじゃないか。

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続・変態の春

四月の変態


前回の文章の続きにはなるが、今年の4月1日の朝の変態達の跋扈たるや、筆舌に尽くしがたい。電柱と喋る変態はまるでお化けを見たか、と一瞬我が目を疑った。まず、いまだ自分が夢でも見ているのではないか?とさえ一瞬我が目を疑った。
なぜ、年に一度ののエイプリルフールに、あおような非現実が起こったのか、悔しくて悔しゅうて仕方ない。

ありのまま、話し手もあまりにも現実離れしているから、誰も信じやしない。非現実な出来事をありのまま話し手も誰も耳を傾けぬようじゃ。

実際元同僚に電話しても「ああ〜エイプリルフールね〜」と軽くあしら割れる始末。部下に至っては、そんな下らないことで連絡したのか、と今にも怒りださんとする姿勢。

娘も妻からは、音沙汰無しじゃった。

帰宅しておるのだろうか?また二人でわしを差し置いてフレンチなぞ喰らいにお出かけしとるのやもしらん。そんなふうに自分に都合の良い解釈を繰り返していたのがバカじゃった。なぜふたりが、わざわざいっしょに外出していたのかを真剣に深く考えもしなかった。

本当のバカはわし自身じゃから ♪

バカなわしは、「家が火事だ!」などと不謹慎なウソを考えたりもしたのじゃが。粗末な嘘は、来年のエイプリルフールまで一旦持ち越しじゃの。

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