わしの悩み

どうでもいい悩み


もう、わしの悩みは妻と娘の心を取り戻してあげるべく、全力でtっすけてあげることじゃ。以前のわしの中にあった悩みはもう、すでにわしの悩みではない。その悩みは、完全にどうしようもできない物事だから。

わしには兄がいた。四歳年上の兄じゃ。すでに兄の死んだ年齢を超えた。

兄は交通事故で頭を潰し死んだ。助手席の恋人は無事じゃった。死んだ兄の年齢をもうすいぶん上回って、わしは、失業生活をすごしておる。

気付けば、兄に関する記憶が薄らいでいる。わしはたまにこわいと感じる。わしの中から兄が、兄の記憶がなくなるのかと思うと空恐ろしくなる。しかし、兄の死をきっかけに、灰色の二十代をやり過ごせたような気もする。このまま薄らいでしまえとも一瞬思う。わしの大切なふたりを助ける為に忘れるべきなのかもしれない。わしはわしが死なない限り兄の死んだその日のことを忘れることはできない。

妻や娘がいなくなれば、わしには何が残るのだろうか。今のわしにはわからない。

電車から見える街の灯はオレンジ色。きれいじゃ。わしは、変わったのぅ。清廉潔白ではなくなり、ただ、テクニカルに人心を操る術を得た。威圧する傲慢さも体得した。大人の欺瞞に満ちた笑顔など、やろうと思えばいくらでもできる。

そのようなときに人の本当の優しさ、代償を求めない優しさに触れてしまうと心が張り裂けそうになる。建前で付き合うビジネスライクな連中と過ごし過ぎたのかもしれぬ。わしは立ち戻れない。失業生活はまだ終わらない。ふたりを取り戻すまで。

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